秋田の人はこういう雑誌に物件を出さない傾向があるようだった。
珍しいので見てみると「山村で暮らしてみませんか。雪と楽しく付き合える方。」とある。「ああ、雪がけっこう降るのかな」それくらいの意識だった。何せ、僕は福島以北には行ったことがないという男。
夏に撮ったと思われる家の写真が1枚だけ。「周りはどんな景色なのかな」とヤケに気にかかる。
「よし!」とさっそく軽トラをとばして見に行くことにした。なぜかこの時の僕の行動力は尋常ではなかった。
東北道をひたすら北上して一関から山道に入る。厳美渓という観光地を過ぎると、いい感じの里山の風景が展開する。「矢口高雄っぽくなってきたな、いいぞ!」と一人で盛り上がる。
栗駒山を登りだし、標高1000メートルを超えてくると、雲が下に見え、さすがに不安になってくる。が、「あおいは登山女子だから喜ぶだろう」とポジティブに考える。
日本列島の背骨に当たる山脈の峠に「須川温泉」という看板がある。こんな高いところに大観光地があるのが不思議だった。
そしてついに「秋田県」と「東成瀬村・仙人の郷」という看板が!
そこからは日本海側への下り道。しかし20分走っても一軒も家がない!この辺はずっと国定公園内だったのだ。最初の集落が出てきてからは、雑誌の写真と一軒ずつ照合していくしかなかった。住所が書いておらず「国道342沿い」という情報しかなかったのだ。
やがて50件目くらいで写真の家が見つかった。
小屋を覗くと暗がりにトラクターが見える。家は築40年というだけあって古ぼけているが、全く気にならない。周りの風景がいい。雑木林と成瀬川の深い渓谷。このときちょうどお盆だったが、涼しい里山の風が稲を揺らしていた。
軽トラの座席でさっそく大家さんに手紙を書き始めた。
「物件を確認しました。おそらく一番のりだと思います。ぜひ僕たちにお貸しください!移住と同時に結婚する予定でおります・・・」
そのときちょうど通りかかったおばあさんがいた。僕は会釈をして「この辺は雪って降るんですか?」という、今思えばバカらしい質問をした。
おばあさんは「ああ、雪か?雪なば、びゃっこばりでねえぞ」と言った。
まるで意味が分からない。でも「ねえ」と言うんだから「あまり降らねえ」ということだろうと、あくまで楽観的に考えた。
そして「栗駒山はここからだとこっちの方角ですか?」と聞くと「んだ。あらまし、んだびょん。」と言うのだった。
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